前回のブログで、カウンセリングや心理療法を「潜水」と「競泳」にたとえました。
悩んでいる人にちょうどいい深さで潜る(泳ぐ)のをアシストするというのが、統合的心理療法・カウンセリングだとも書きました。
これらのイメージは、「心には深層の領域がある」という前提があります。
では、心の深層とは何でしょうか?
心の表層を「日常的に活動している感情や認識」とすると、心の深層とは「普段は感じないようにしているけれど、本当は強く抱いている感情や認識」と言うことができます。さらには「時間的に古くて普段は意識していないけれど、実は強く残っている記憶」と言ってもいいかもしれません。
でも、そもそも心に深層なんてあるんでしょうか?
実は、このように人間の心に「層構造」や「心の構造」、さらには「無意識」などを想定するのは、ロマン主義的な考え方だと言われています。
音楽や文学・美術などで「愛の喜び」や、その反対の「絶望と苦悩」、それらを乗り越えた理想主義などを表現している、あの芸術群に通じるものです。
けれども、人間の脳にこのような層があるわけではなく、実際に脳にある構造で層に近いのは「大脳」や「小脳」、あるいはこれらをまとめて「旧皮質と新皮質」という呼ばれ方をしている部位です。これらはいわゆる「深層心理学」で言うような層構造より、かなり単純なものです。
けれども、前回のブログに書いたように、明らかに「深ーい」と感じさせる心の領域があるのも、実感できるところです。
古い記憶や、より根本的でその人に強い影響を与え続けている感情や認識、さらにはしみじみとした涙なしには語れない気持ちなどは、やはり心の深層としか言いようのないものです。
こういった領域に繰り返し触れて行かないと解決されない悩み、変わっていけない自分の行動傾向があるのも、事実です。
その一方で、「戦略的発想」や「別の考え方」などを丁寧に取り入れていくことで解決していく部分があるのも、また事実だと私は思っています。
もちろんこれらは、すべて連続線的につながっているので、どちらから取り組み始めても、結局はたどり着けるとも私は考えています。
では、どっちから始めるのか?
その選択はもちろん、来談なさる方ご本人のご希望によるのですが、よりスムーズな取り組みを選んでお伝えするというのも、私たちの専門性の発揮しどころだと思っています。
ちょうど、腕のいいマッサージ師や整体師さんが、どこから揉みほぐしていくのが一番スムーズかを見極めて、お勧めするというのに似ています。