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【重要提言】主治医の指示についてー過剰反応は職域を狭めるだけでなく、利用者の利益を損なうー

この2年近くの間、新たに誕生した公認心理師たちの「主治医の指示」に関する過剰反応を見聞きしてきました。そして、とうとうクライエントさんから、この過剰反応に対する疑念を聞かされましたので、重要提言としてお伝えします。(長文になりますので、お急ぎの方は最後の「まとめ」だけでもお読みください)

 

過剰反応の内容は以下です。(以下、プライバシーに配慮して、本件に関係しない細部を多少変更して記載いたします。)

 

「ある思春期のクライエントさんが、病状の変化とともに主治医を変更し、それを以前から通っている適応指導教室(的な公的な施設)に伝えたところ施設側から『主治医に、こちらが用意する指示書を記入してもらって提出してほしい。その提出までは、施設利用を控えてほしい』と伝えられたとのことだった。それを主治医に口頭で伝えたところ「施設利用は全く問題ない」という返答だったにもかかわらず、指示書そのものの用紙が適応指導教室側からなかなか発行されず、施設を利用できない期間が不当に長引き、苦痛を味わった。その後、指示書が発行され、主治医はそれに即座にサインし、現在クライエントさんはその施設のグループ活動の主要メンバーとしてリーダシップも発揮し信頼を集めている。クライエントさんは途中で何度も抗議したにもかかわらず、それは聞き入れられなかったが、これ以上問題にしても自分のメリットにならないと思い不問にしている。」

 

という事例です。

 

上記の事例以外にも、かなり多くの心理臨床現場で「医療にかかっている方は、初来談時に紹介状をお持ちください」と表明しています。

また、最近その傾向が増加していると感じます。

 

さらに教育相談やスクールカウンセリングの現場では、チェックボックス付きの文書を主治医に送って返送していただく形にしているところが増えているとも聞きます。

以下のような形でしょうか?

 

☐カウンセリング開始を認める。

☐カウンセリング開始を認めない。

 

もちろん、心ある精神科医や心療内科医、小児科医が、精神病圏のクライエントさん以外に関して、上記のチェックボックスの「認めない」にチェックをつけることはとてもまれであるとは思います。

しかし、これらの対応は、本当に利用者・要支援者の利益につながっているでしょうか?

 

少し、原点に立ち戻ってみましょう。

 

公認心理師法第42条の2には以下のような規定があります。

公 認 心 理 師 は 、 そ の 業 務 を 行 う に 当 た っ て 心 理 に 関 す る 支 援 を 要 す る 者 に 当 該 支 援 に 係 る 主 治 の 医 師 が あ る と き は 、 そ の 指 示 を 受 け な け れ ば な ら な い 。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000121345.pdf

 

上記の事例のような対応やその下に書いた傾向は、この法文を受ける形で、強まっていると考えられます。

 

私は、これらの対応は公認心理師法第42条の法文を「主治医による事前の了承や指示を受けなければならない」と拡大解釈している結果だと考えています。

もちろん同一機関内(とくに医療機関)では、主治医の事前の指示を得ずに心理的な支援を始めるという事は考えにくいでしょう。

けれども、他機関の心理師も事前の指示が必要なのでしょうか?

 

私は、違うと考えています。

たしかに、心理相談機関の自衛策としては、「初来談時には紹介状を持ってきてください」というのは正当性のある表明だと思います。けれども、利用者さんから考えたらどうでしょうか?

正直かなりハードルが高いと感じます。

 

紹介状を書いてもらうにはお金もかかりますし、「実は、よそのカウンセリング機関に行きたいんですけど」とはなかなか言い出しにくいのではないでしょうか?

ましてや、「ちょっとカウンセリングを試してみたいんだけれど」という軽い気持ちでは、紹介状をお願いするリスクを取る気になれなくなるのではないでしょうか?

 

この場合のリスクとは、「主治医の機嫌を損なうのではないか?」「見捨てられるのではないか?」「忙しい診療時間中にそんなことを言い出していいものか?」などのリスクです。

 

なので、私や成城カウンセリングオフィスではあえて初回の申し込みがあった方に「医療にかかっている場合は、医師の紹介状をお持ちください」とは、お伝えしていません。

 

カウンセリングを継続するとなった時に「カウンセリング開始報告書」を、クライエントさんの同意を得て作成し、そこに「アセスメントと問題理解」「カウンセリングの目的と手法」等とともに「今後ともよろしくご指示をお願いいたします」と書いてお送りしています。

 

公認心理師法ができてからもこのような「カウンセリング開始報告書」をオフィスとして20通以上は書いていますが、連絡を取り合うことはあっても、異論や特別な指示を受け取ったことは一度もありません。

 

このような経験がありますので、公認心理師法の法文の趣旨は「主治医の指示や方針と異なる見解を振り回さないように」ということだと理解しています。

 

改めて「公認心理師必携テキスト」(学研メディカル秀潤社)の巻末にも掲載した文科省・厚労省の「公認心理師への主治医の指示に関する運用基準」の「公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準」(厚生労働省,平成30年1月30日)を見てみたいと思います。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000192943.pdf

 

まず、この運用基準の趣旨が書かれています。

 

「本運用基準は、公認心理師が法第2条各号に定める行為(以下「支援行為」という。) を行うに当たり、心理に関する支援を要する者(以下「要支援者」という。)に、法第 42 条第2項の心理に関する支援に係る主治の医師(以下単に「主治の医師」という。)がある場合に、その指示を受ける義務を規定する法第 42 条第2項の運用について、公認心理師の専門性や自立性を損なうことのないようにすることで、公認心理師の業務が円滑に行 われるようにする観点から定めるものである。」

 

次に、基本的な考え方が書かれています。

 

「公認心理師の意図によるものかどうかにかかわらず、当該公認心理師が要支援者に対して、主治の医師の治療方針とは異なる支援行為を行うこと等によって、結果として要支援者の状態に効果的な改善が図られない可能性があること、その治療方針と公認心理師の支援行為の内容との齟齬を避けるために設けられた規定である。」

 

ここまでですでに「公認心理師の専門性と自立性」が尊重され、その上で「医師の治療方針と公認心理師の支援行為の内容との齟齬を避ける」という基本的な精神が述べられています。

 

また

 

「主治の医師からの指示は、医師の掌る医療及び保健指導の観点から行われるものであり、公認心理師は、合理的な理由がある場合を除き、主治の医師の指示を尊重するものとする。」 

 

とあります。

これはつまり、合理的な理由がある場合は、必ずしも従わないといけない訳ではないと理解できます。

 

それは以下の文章からもはっきりと読み取れます。

「公認心理師が、心理に関する知識を踏まえた専門性に基づき、主治の医師の治療方針とは異なる支援行為を行った場合、合理的な理由がある場合は、直ちに法第 42 条第2 項に違反となるものではない。」

 

「公認心理師が所属する機関の長が、要支援者に対する支援の内容について、要支援者 の主治の医師の指示と異なる見解を示した場合、それぞれの見解の意図をよく確認し、 要支援者の状態の改善に向けて、関係者が連携して支援に当たることができるよう留意することとする。 」

 

とあります。また、この中でも4の(5)「要支援者が主治の医師の関与を望まない場合」がとくに重要だと思います。

 

この場合「公認心理師は要支援者の心情に配慮しつつ、主治の医師からの指示の必要性について丁寧に説明を行うものとする」

 

となっています。

これは、その前の(2)「主治の医師からの指示を受ける方法」の後半部分の、「公認心理師が主治の医師に直接連絡を取る際は、要支援者本人(要支援者が未成年の場合はその家族等)の同意を得た上で行うものとする。」という文言と合わせて理解すれば、

 

要支援者が同意しなかった場合は、無理やり主治医に連絡を取ってはいけないということになります。


これは、常識から考えても、職業倫理的に考えても当然のことです。

ですから、「主治の医師からの指示の必要性について丁寧に説明を行う」までは、義務ですが、そこから先は要支援者の意思が大切ということになります。

 

まとめ

以上、見てきたように、公認心理師はその専門性と自立性を厚労省からも認められており、その都度その都度、医師の指示を仰いだり、事前承諾を得るという存在ではないということを理解する必要があります。そして、当然ながら主治医の方針と大きな齟齬なく支援を進めて行く必要はありますが、それでも合理的な判断がある場合は、主治医と異なる方針を持っても良いということです。

この主治医と異なる方針とは、「服薬をやめましょう」とか「あなたは入院する必要はありません」などの越権行為的な内容ではありません。

また、うつ病や統合失調症の急性期にカウンセリングの継続にこだわるなども、主治医の意思に反する合理性はないと言っていいでしょう。

 

そうではなくて「クライエントさんが主治医との相性の悪さに苦しんでいる」などの場合、セカンドオピニオンをお勧めしたり、要望に応じて別の医師を紹介するなどが、現実的と思われます。あるいは、私の経験した別の例では、主治医が紹介してきた青年期のクライエントさんが、「主治医の先生は『一人で行きなさい』と言うんですが」と母親との同席面接を求めてきた時「しばらくはお母さんと同席でいいと思いますよ」と柔軟な対応を提案したということもあります。

 

 

いずれにしても、公認心理師が自己保身のために、クライエントさんの利益を損なったり、負担を増やしてまで、過剰に主治医に忖度することは避けなければいけません。

私たちは、いまや国家資格を有する専門家としての、矜持と責任性をしっかりと引き受けなければいけないのだと思います。

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