1.はじめに
教育相談や青少年相談においては、子どもや青少年本人へのカウンセリングと並行して親への面接を継続的に実施する場合が多いでしょう。また、スクールカウンセリングにおいても、この親面接は重要な業務と言えるでしょう。
けれども、ほとんどの心理士(師)は、この親面接のトレーニングを受けてきていません。
大学院の学内実習施設では、大学院生は子どもを担当することが多く、親面接は中堅・ベテランの相談員や教員が担当することになります。もちろん、きちんとした大学院では大人のカウンセリングは担当できますが、親としての立場で来談するクライエントを担当する事はほとんどないでしょう。
大学院を修了して、クリニックや病院に就職すると、親面接は医師が担当する場合が多く、教育相談や青少年相談の現場においては、やはり中堅やベテランが親担当になります。
では、その中堅・ベテラン、あるいは医師は、親面接をどのように身につけてきたのでしょうか?
それは、「見よう見まねと経験」です。
幸運な現場であれば「先輩から指導してもらえた」という人もいるかもしれませんが、親面接を始めて担当する頃には、すでに中堅になっている場合が多く、「指導してもらえる立場から指導する側になってしまっている」場合が多いと考えられます。
もっとも困難なのは、スクールカウンセラーです。
大学院を出たばかり、あるいは修了後数年でスクールカウンセラーになったとすると、誰の指導も受けずに、誰とも相談せずに着任早々親面接をしなければいけなくなります。
しかも、それは「我が子がクラス内でいじめられている」という訴えであったり、教員への不満やクレームであったりという、極めて慎重な対応と、時に機敏な対処を求められる内容であることもしばしばです。
「いじめの問題でスクールカウンセラーの所に話しに行ったのに、ただ聴いてくれるだけだった」というような訴えをご父母向けの講演会その他の折に、複数聞かされています。
2.親面接の難しさ(1)
上記のように、ほとんどの心理士(師)がこれといったトレーニングを受けずにやっている親面接ですが、実は心理面接の中でも難しい業務のトップクラスに位置づけられると言っていいと思います。
その難しさは新人スクールカウンセラーだからとか、若手相談員だからという心理士(師)側の要因だけでなく、業務そのものの難しさが大きいと言っていいと思います。
以下に、その難しさの要因をあげてみます。
(1)主訴が多岐にわたること・・・主に我が子のことであるが、不登校・いじめ・教師や学校側の問題、場合によっては家族の問題や親本人の虐待が疑われる場合もあり、共感的傾聴だけでは全く問題が解決しない場合が多い。
(2)親自身には内省的姿勢がない場合が多い・・・「自分が変わる」必要を全く感じていないか、反対に自分を責めすぎているか、あるいは親自身も発達の偏りがある場合が多い。
(3)日常の親の姿と違った様子で現れることも多い・・・相談場面での語りの内容や態度が、日常や我が子に対するものとかけ離れていて、家での実態がつかみにくい場合が多い。
(4)親を取り巻く関係者に要注意人物がいる場合が多い・・・親の親、ママ友、地域の有力者など、多大な影響力を持ち、なおかつその影響力が健全な形で機能していないことが多い。
3.親面接のコツ~アセスメントに基づいた介入目標
では、このようにとても難しい業務である親面接をうまく進めるコツはなんでしょうか?
それは、やはりアセスメントです。
・状況と問題のアセスメント
・ニーズのアセスメント
・親機能と特性のアセスメント
と言っていいと思います。
この中で最初の「状況と問題のアセスメント」は細かくなりすぎるので、ここでは省略するとして、この状況と問題のアセスメントを踏まえてなされる「ニーズと親機能・親の特性のアセスメント」とそれに基づいた、介入目標について解説しましょう。
(1)多職種連携を含めた現実的な問題対応が必要な場合
・・・問題が虐待やいじめ、学級崩壊などの、即時対応を求められる性質のものである場合。
(2)親をサポートチームの一員として協働する場合
・・・子どもの先天的な障害や発達障害、身体問題などがあり、親・教師・カウンセラーが連携して、子どもを理解して支えるチームの一員となっていただくための支援。
(3)親に我が子の状態を理解してもらうための関わり
・・・不登校・引きこもり・チックなどの身体現象・心身症や起立性調節障害などの身体の問題、さらには発達の偏りなど、まずは親に我が子の状態を理解してもらうための主に心理教育的な関わりが中心となる。親の健康度と信頼関係に応じて、子ども面接やプレイセラピーでの様子を慎重に伝えることも含まれる。「お子さんはすごく頑張っている様子ですよ」「不安が高まっている様子です」など、こちらの印象や見立てを伝えるのが良い。
(4)親自身の不安や衝動性を下げるための関わり
・・・子どもの問題の背景に、親自身の不安の高さや衝動性が明らかに存在する場合には、慎重かつ共感的にそれを伝えて、「一緒に取り組んでいきましょう」という作業同盟を結ぶ。この同盟が結ばれたなら、そのための自律訓練法やマインドフルネス瞑想、衝動コントロールのさまざまなスキルを提供することを躊躇わないことが大切。
具体的には親自身のADHD、ASD、軽度抑うつ(気分変調症)等がこれに相当する場合が多いが、そのような病名ではなく、ご本人の「困り感」に共感的に焦点を当てることが大切。
(5)親自身のメンタルヘルス問題と精神病理的な問題への対応
・・・親自身のPTSDやうつ病、双極性障害、パーソナリティ障害、統合失調症等の問題が想定される場合も少なくない。このような場合にはできるだけ早期に把握しながらも、まずは共感的にサポートすることを第一とし、本人の困り感や必要性に応じて、本格的な心理療法や医療に繋げることも視野に入れながら関わる。けれども、教育相談や青少年相談の主な目的は、子の健全な育ちを促進することであるので、親の子どもへの関わりが不安定にならないようにすることを第一の目的とする。その意味で、医療や心理療法に繋がったらそれで終結とせずに、サポートを続ける方が望ましい場合も多い。
4.親面接の難しさ(2)ー子ども担当とのやり取りと協働
親面接を一度でも経験すると痛感するのは、子ども担当とのやり取りと協働の難しさである。これは自分一人で親面接も子ども担当もする場合は、「親担当としての自分」と「子ども担当としての自分」の葛藤として体験されるかもしれません。
いずれにしても基本的にその事例の親子関係の問題が、親担当者と子ども担当者との間にも転移されると考えるのがいいでしょう。
その意味で、私は「親担当、子担当の間には、時として代理戦争が起こる」とよく言っています。
場合によっては、子担当者が不安と依存を強めて、親担当者に縋りつくような事もあれば、その反対に、反抗的な子供のようになって親担当者と敵対する場合もあります。
その一方で、親担当者が過干渉な親のようになって、事例全体をコントロールしようとする場合もありますし、無責任で回避的な親のようになることすらあり得ます。
これらが、その心理士(師)にいつも同じように起こっているなら、それは、その心理士(師)固有の問題ですが、そうでないならケースの影響によって(つまり逆転移や投影同一化によって)生じていると考えるべきでしょう。
ここで言う投影同一化とは、精神分析の概念として近年注目されているものです。
クライエントが無意識のうちに抱えている怒りや虚無感などをセラピストに投影し、セラピストはその投影内容に同一化させられてしまうという巻き込み現象を指します。
この投影同一化をセラピストたちがしっかりと意識化しないと、セラピストチームは仲違いしてしまうだけでなく、クライエントやその親に対して、直接的にネガティブな感情をぶつけてしまいかねません。
情報伝達と情報共有について
上記のような逆転移や投影同一化が絡んで、時に悩ましいのがこの情報伝達と情報共有です。
これは、下の「公認心理師必携テキスト」の16章3節の図を参考にしてください。
つまり、非行傾向や過剰適応身体表現性障害や神経症から摂食障害までは、あまり親担当者と子担当者が情報共有しすぎない、関係者会議をやりすぎないことが大切ですが、それ以外、発達障害や円の反対側の精神病圏、嗜癖・依存症などの問題なら、場合によっては一人の担当者が親面接も子面接もやるというのが、効率的で効果的だったりもします。
5.おわりに
ここまで書いてきたように、やはり、事例に応じて複線的な対応を用意しておくべきであり、それを成功させるためには、何よりもアセスメントが大切だということがわかっていただけると思います。