カウンセラー・セラピストは誰に悩みを聞いてもらうの?
福島哲夫
〇セルフケアそれとも相互扶助?
私もよくクライエントさんたちに聞かれます。
「先生は、こういう話を聴き続けて落ち込んだりしないのですか?」と。
そんな時私は、
「元々暗い話が好きなんですよ!」と答えたり、
「こういう話でこそ、深く触れ合える気がして、つらくはならないんですよ。。」と答えています。それは、とても正直なところなのです。
以前私は(福島,2017)「(カウンセラーの)「セルフケア」と「自己点検」は,基本的に
は「すべて臨床活動(訓練も含む)のなかでされるべき」と書いたりしてきました。つまりカウンセラーの臨床的なストレスは、十分な内省を経たのちに「クライエントと共有する」ことで、ストレスではなく前向きな取り組みとして解消されると考えてきました。
たとえばクライエントさんから「なんか、カウンセリングの効果がいまいち感じられないんです」とか「最近、ここに何しに来てるのかなと思います」と言われると、正直かなりショックだったり、グサッと来たりするものです。
それに対して「確かにこのところカウンセリングの成果が今一つ上がっていないかもしれませんね。それを一緒に考えていきましょう。」とクライエントに伝えることで、こちらの臨床的ストレスはクライエントの取り組みを促進する触媒となり、もはやストレスとは感じられなくなります。
以上のような考えは今でも全く変わりませんが、これに加える形で最近痛感しているのはやはり仲間の存在の大切です。今年になって私のオフィスに勤務し始めたカウンセラーが「前の職場では、心理士同士の会話がほとんどなかったけれど、ここでは雑談もケースの話もできて、とても支えられている」と言ってくれています。さらに別のスタッフは、私のスーパービジョン(SV)のセッション中にとても沈んだ様子だったので、ヴァイザーとしての私は、セッション中と最後にその抑うつ感への共感と労い、ゆっくりすることへの勧めをしてスーパービジョンを終えました。
すると、数時間後にとても元気な様子が感じられたので訊いてみると「SVの後、別のスタッフとくだらない雑談をしていたら、うつ抜けしました!」と教えてくれました。
〇密な空間の大切さ
実は、私のカウンセリングオフィスのスタッフルームは、2DKのマンションのキッチンスペースでとても狭いのです。面接室は隣に1つ借り増しして3部屋あるのですが、スタッフルームはそのままです。このスペースで私がデスクトップパソコンに向かっていると、スタッフはカウンセリングの合間に次々と様々な話をしてくれます。
それは時に私の業務の停滞を招くのですが、ふと「私の師匠たちはこんなことはしてなかったな」と複雑な思いに駆られる時があります。そして、「もっと収益が上がったら、広いスタッフルームと個別の部屋を持ちたいな」と夢想したりも。そしてとうとう5年前に廊下の反対側にもう一部屋借り増しした際には、念願かなってその部屋に私専用のデスクとパソコンを用意したのです。
けれども、それは今現在に至るまでめったなことがない限り使用されていません。
そこで作業しても何もいいことがないのです。
元々集中の持続しない「集中困難型ADHD」の私なので、誰も話しかけてこなくても、執筆は5分で行き詰まり、立ち歩く必要があるです。
これを先のヴァイジーさんや新入りスタッフのさんの話と合わせて考えれば、やっぱり私たち心理士は「密な空間での雑談」を必須としているのではないでしょうか?
というわけで、私たち成城カウンセリングオフィスのカウンセラーたちはこのコロナ禍の下では窓を開けながら、それでも密な会話をし、健康を保てています。(幸いオフィスでの感染者は発生していません)。
〇先行研究では
ちなみにカウンセリングや心理療法のプロセスと結果には、カウンセラーの個人的な経験も重要とされていますが、そういったカウンセラーの個人的な経験とそのカウンセラーが実施するカウンセリングの質との関係については、ほとんど知られていません。
代表的な研究に以下のようなものがあります。
国際的な大規模サンプル(N 4=828)のカウンセラーたちの自己報告(Orlinsky & Rønnestad, 2004, 2005)を分析した結果、カウンセラーの生活の質を反映した2つの因子Personal Satisfactions(個人的満足感)とPersonal Burdens(生活負担感)とが抽出され、それらの2つの因子とDevelopment of Psychotherapists Common Core Questionnaire(Orlinsky et al, 1999)のQuality of Personal Life scalesを用いて調査した研究です。
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上記の質問紙に加えて患者とセラピストの両方によって評価された同盟レベルと成長の予測因子(Working Alliance Inventory(Havikら、1995年)を使用して)を使って大規模な(227人の患者と70人のセラピスト)通常の外来心理療法において調査された。
Thの個人的な生活負担スケールは、患者の評価による作業同盟の進展に強く、負の関連を示していたが、セラピスト評価による作業同盟とは無関係であった。逆に、セラピストの個人的生活満足度は、明らかに、そして肯定的にセラピスト評価の同盟の発展と関連していたが、患者の評価とは無関係であった。
この結果は、作業同盟(ワーキングアライアンス)がセラピストの生活の質に影響されることを示唆しているが、患者やセラピストによって評価された場合には、それぞれ異なる方法で影響を受けていることを示唆している。患者はセラピストの私生活における苦痛の経験を特に敏感に感じているようであり、それはおそらくセラピストのセッション中の行動を通して伝えられていると思われるが、一方で、セラピスト自身の同盟の質の判断は、個人的な幸福感によってポジティブに左右されていた。
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つまり、カウンセラーの個人生活上のネガティブな出来事は、クライエントにすぐに見破られるけれど、反対にポジティブな幸福感は特には伝わらないという結果です。日本では、そして私のクライエントさんたちは、どうでしょうか?
ちなみに私は家庭では「少しネガティブ」な時くらいの方が、評判がいいです。家庭で幸福感が高い時にはポジティブになりすぎて、少し共感力を失っているみたいです。さらに、大学内では「楽観的な前のめり学部長」として通っています。まあ、組織のリーダーとしては楽観的なくらいがいいのではと自分では思っているのですが。。。
いずれにしても、カウンセラーのセルフケアはとても大切だという事に変わりはないようです。
○文献
福島哲夫(2017) カウンセラーのセルフケアと自己点検をどう進めるか?臨床心理学第 17
巻第 1 号
Helene A. Nissen-Lie,Odd E. Havik(2013)The Contribution of the Quality of Therapists’
Personal Lives to the Development of the Working Alliance. Journal of Counseling Psychology Vol. 60, No. 4, 483–49