前回のブログでは、カップルの喧嘩において悪循環を防ぎ、二次被害を生まないための秘訣をお伝えしました。
では、そのような秘訣を守ったうえで、建設的な対話はどのように進めていけばいいのでしょうか?
この際に参考になるのが「LOVEの会話」とアサーションの中の特に「DESC法」と呼ばれるものです。
1.LOVEの会話とは
まずは、親密な対話の基本として、以下の4つの態度があげられます。
Listen・・・心を込めて相手の話を傾聴する
Open・・・先入観のない心と頭で真摯に向き合う
Validate・・・お互いの話を正当だと認め、受け入れる
Express・・・自分の考えや気持ちを穏やかに、簡潔に、ゆっくりと表現する
これら4つの特徴の頭文字をとって「LOVEの会話」と呼ばれています。
これは『カップルのための感情焦点化療法』(金剛出版、2021)の中で紹介されているものです。
少し説明しましょう。
まずは相手の話を傾聴する(Listen)は必須です。
そして、さらに傾聴して終わりではなく、かといってすぐに反論したり解決策を伝えたりするのでもなく、Openな態度つまり広い心で「なるほど、そういうことなんだね」「そう思っているんだね」などと、まずは受け止めます。
これは単に受け止めるだけではなく「先入観なく新鮮な気持ちで受け入れる」という態度が大事です。
そして、Validateです。
このValidateとは、「(妥当なものとして)承認する」「是認する」という言葉です。砕いていえば「認める」です。
要するに相手の発言を認めるというのが、このValidateです。
ただし、これは形だけの承認ではなく、「たとえ違う意見、違う立場、あるいは腹の立つような発言であっても、まずは心から認める」というものです。
そして、最後がExpress表現するです。
これは「自分の考えや気持ちを穏やかに、簡潔に、ゆっくりと表現する」というものです。
どんなに大切な気持ちでも、あるいは相手を思いやっている気持ちであっても、怒った顔で長々と話したら伝わりません。
穏やかに、そしてできたら簡潔に、さらにゆっくりと言葉にしないと相手には伝わらないものです。
まして、「言わなくてもわかって欲しい」「こんなことくらいわかって当然」というのは、この多様化した現代ではもう通用しません。
これら4つの態度の頭文字を取ったものが「LOVEの会話」です。
親密な関係における対話は、この4つが基本となります。
おそらく、仲良く楽しくできている時には、自然にこれらの4つが満たされているでしょう。
けれども、親密な関係であればこそ、安心してリラックスして本音が出てきます。
雰囲気が少し険悪になったときや、お互いの考えや感じ方の違いが明らかになったときにも、お互いに本音を出し合いながらも、この4つの態度が実践できるかどうかがとても大切な秘訣となります。
2.アサーションとは
親密な関係における自己表現で大切な考え方が、アサーションです。
このアサーションとは「自他を尊重した自己表現」と訳されるもので、「攻撃・感情的な主張」でも、「主張しない」でもなく、自分のことも相手のことも大切にした自己表現のことです。
具体的なスキルとしては、「相手の意見を聞く」「相手に意見を伝える」「双方の意見を検討したのち具体的なアクションを起こす」という3つのステップが基本です。
この中には言語的なアサーションと非言語的なアサーションの両方があります。
◎言語的なアサーションとは?
言語的なアサーションとは、文字通り「意味のある言葉によって相手に働きかける」ことを指します。言語的なコミュニケーションでは、発する言葉の意味以上に重要になるのが、「どういう文脈でその言葉を発するか」です。いわば自己主張するための文脈を整備するスキルだと言えるでしょう。
例えば、相手に対して突然「嫌いだ!」などというと、相手は不快感を抱きます。言われた側からするとそんな風に言われる文脈がないため、一種の不条理的なシチュエーションに引き込まれることになります。この不快感が相手との衝突を深める危険があります。
ですので言語的なアサーションとして重要なのは、感情や主張を言うよりも先に、「今、どういう状況にあるのか」をきちんと相手と共有することです。「今少しいいかな?」「少しお話があるんだけれど」「この前もお話しした◯◯についてなんだけれど」というように、きちんとした前置きで、まずは文脈を整備することで、相手にも心の準備ができて、対話がしやすくなります。
この時に「そんなことをすると急に雰囲気が険しくなる」と心配する人がいます。
けれども、こういった文脈つくりなしに不満をため込むことの方が長期的には悪影響だということを理解すべきでしょう。
◎非言語的なアサーションとは?
非言語的なコミュニケーションには、頷きや表情など視覚に訴えるものと、声色や声量そして相槌やオウム返しなどの聴覚に訴えるものがあります。例えば、謝罪や愛の言葉を伝える時に足を組んでいたり、テーブルをコンコンと叩きながらする人はいないと思います。
そのように、自分の気持ちが誤解されないように配慮するのが、この非言語的なアサーションのエッセンスです。
非言語的なアサーションで注意したいのは、感情のコントロールです。いくら言語的なアサーションが上手であっても、仕草や表情と言葉が一致しなければ、相手に不快感を与える恐れがあります。
例えば何か頼まれごとをされたとき「いいですよ」と答えても、しかめっ面など不機嫌そうな表情をしていると「したくないけれど、仕方がないからやってやる」という風に解釈されてしまいます。
◎アサーションスキルのアップに欠かせないDESC法
アサーションスキルを体系的にまとめた理論として、DESC法というものがあります。これはアサーションのプロセスを以下の4つのステップに分解したものです。
D:Describe(描写する)
客観的に状況・事実を伝える
E:Express(表現する)
自分の意見や感情を表現する
S:Specify(提案する)
相手に求めているものを言葉で伝える
C:Choose/Consequences(結果を伝える)
提案したものの実行/不実行による結果を伝える
アサーションとは「自己主張」の能力であり、同時に他者を尊重することが求められるスキルでもあります。他者を尊重するというのは感情的な信頼もそうですが「合理的に話を進める」ことも大切な要素となります。DESC法とは、まさに合理的解決のための道筋を整備する方法だと考えられます。
例えば、友人が最近何度か待ち合わせに遅刻したケースをイメージしてみましょう。続けて遅れてきた友人に対していきなり怒りをぶつけると、お互いの感情同士がぶつかり合って関係性を悪化させるだけになる恐れがあります。ですので、まずは文脈をきちんと作ることが大切です。簡単な会話例をみてみましょう。
「このところ何回か遅刻してるけど(D:描写する)、どうしたの?」
「ごめんごめん、寝坊してしまって」
「遅刻が続くと心配になるし、後ろの予定にも響くからちょっと困る(E:表現する)」
「気をつけるよ」
「ちょっとスケジュールに無理があるかな?もう少し、遅い時間に待ち合わせする?(S:提案する)。そうすれば、私も別の用事してから来ればいいし、前もってわかっていれば後ろの予定もずらせるかもだし(C:結果を伝える)」
「わかった、次からそうするよ」
この会話のポイントは、具体的に何をすればいいかをはっきりさせているところです。「何が起こり」「どう問題が生じ」「どうすれば解消され」「それでどのようになるのか」に具体性を持たせることで、相手に理解や納得を促すことができます。
◎アサーションは理解・納得のプロセスが大事
アサーションスキルを身につけるためには、相手がどういうプロセスで理解・納得するのかを知ることが大切です。
DESC法は、そのプロセスを利用したアサーションの具体的な方法であり、活用することで自然な自己表現を身につけることができます。
コミュニケーションスキルは短期的に身につけられるものではありませんが、日々意識し続けることで習得できます。
アサーションをはじめとするコミュニケーションスキルはビジネスにおいても親密な関係においても、とても大切で生産的なスキル・思想です。とくにビジネス場面ではある程度できている人でも、親密な関係になるとそれができない人も多いようです。
DESC法はビジネスでも、親密な関係でも大切なものですし、LOVEの会話は親密な関係でこそその効力が発揮されるでしょう。
これら二つを心において、日常的に自分の言動を振り返り、少しずつ改善していくことを心がけましょう。